

神奈川県横浜市都筑区仲町台5丁目2−25
ハスミドミトリー001

2026年9月11日
前回のブログでは、犬の「多飲多尿」について、一般的によく知られている病気や、動物病院を受診する目安について書かせていただきました。
今回は少し趣向を変えて、実際の診療で「最近、うちの子は水をよく飲むようになった」と飼い主さんが気づいて来院されるのは、どんなパターンなのかを、私自身の経験を多分に踏まえて書いてみたいと思います。
最初にお伝えしたいのは、実は**「多飲多尿に気づいている飼い主さんは、思っているより少ないのではないか」**ということです。
多飲多尿を引き起こす病気には、慢性腎臓病や糖尿病など、健康寿命や寿命に大きく影響するものがあります。
そのため、早期発見・早期治療がとても重要です。
できれば若いうちから、
などを、「普段はどうだったかな?」と分かるようにしておくと、ちょっとした変化にも気づきやすくなります。
また、可能であれば、若いうちは年1回、シニア期には半年に1回程度の定期検診をおすすめしています。
ご家族が多飲多尿に気づいていない場合、獣医師も問診だけではなかなか分からないことがあります。
だからこそ、症状がなくても定期検診の際に血液検査や尿検査を受けることが、病気の早期発見につながる場合があります。
私の診療経験では、飼い主さんが、
「最近、うちの子は水を飲む量が多いです」
と明確に気づいて来院されるパターンには、いくつかあります。
ここで挙げる順番は、病気の発生頻度や多飲多尿の原因としての多さを示すものではありません。
あくまで、私自身の診療経験上、「飼い主さんが水を飲む量の変化に気づきやすい」と感じるパターンです。
私が経験する中では、次のようなものがあります。
では、順番にお話ししていきます。
「最近、うちの子がお水をたくさん飲む」ということを主な理由として来院される場合、私の経験では糖尿病が比較的多い印象があります。
もちろん、このようなケース自体がものすごく多いというわけではありません。
ただ、糖尿病の場合は、
など、変化が比較的はっきり出ることがあります。
そのため、ご家族も「何かおかしい」と気づきやすいのではないかと思います。
急な変化という意味では、次にお話しするステロイド剤の内服や、中毒なども比較的気づきやすいパターンです。
ステロイド剤、特にプレドニゾロンを飲み始めた後に、
「急にお水を飲むようになった」
と感じる飼い主さんもいらっしゃいます。
プレドニゾロンでは、
がみられることがあります。
特に大型犬では、多飲多尿がかなり目立ち、生活に支障が出てしまうケースを経験することがあります。
その場合は、自己判断で薬を中止するのではなく、早めに処方を受けた獣医師にご相談ください。
また、心臓病などで使用される利尿剤でも尿量が増え、それに伴って飲水量が増えることがあります。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)も、多飲多尿が顕著に起こりやすい病気の一つです。
多飲多尿に加えて、多食になることもあります。
この病気は、徐々に症状が出てくることが多く、一見すると元気に見えるため、病気だと気づきにくい飼い主さんも多いという印象があります。
一見元気に見えても、体の中では徐々に病気が進行していることがあります。
そのため、気になる変化がある場合には、早めに動物病院で相談していただくことをおすすめします。
治療については、病状や全身状態などを確認したうえで、薬物療法など、その子に適した方法を検討していきます。
一方で、病気がかなり進行していたり、ほかの病気を併発していたりする場合には、治療による負担と得られるメリットを考えながら、緩和ケアを中心にすることもあります。
中毒による多飲多尿は、それほど多いものではありません。
ただ、私自身が経験したケースで印象に残っているものがあります。
あるワンちゃんが、
「急にお水をよく飲むようになって、おしっこもたくさんするようになった。でも、それ以外は元気」
ということで来院されました。
精密検査を行ったところ、いくつか異常値が見つかりました。
その中で鑑別の一つとして、
「ビタミンD製剤などを飲んでいませんか?」
とご家族にお聞きしたところ、そこでご家族がハッと気づかれました。
実は、ご家族が骨粗鬆症の治療で使用していたビタミンD製剤を、ワンちゃんが誤って飲んでしまっていたのです。
このように、「急に水を飲むようになった」という変化が、思わぬ病気や中毒のヒントになることもあります。
胃腸炎などでも、一時的に多飲多尿がみられるケースがあります。
「お腹の調子が悪い」ということで来院されて、
「そういえば、最近お水もよく飲んでいるかもしれません」
というお話が出てくることがあります。
特に下痢をしているときなどに、飲水量が増えているケースがあります。
もちろん、胃腸炎だから必ず多飲多尿になるというわけではありません。
一時的な胃腸炎が原因であれば、下痢などの症状が改善すると、多飲多尿も落ち着いていくことがあります。
逆に、胃腸炎が治ったのに多飲多尿が続いている場合は、別の原因が隠れていないか確認する必要があります。
尿崩症は非常に珍しい病気なので、ほとんどの飼い主さんは出会うことがないと思います。
もしこの病気になった場合は、飲水量や尿量が非常に多くなるため、多くの飼い主さんが「これは普通ではない」と気づかれるのではないかと思います。
そのため、尿崩症については、
「気づけるか、気づけないか」よりも、診断や治療をどう進めていくかが難しい病気
という印象があります。
心因性多飲というものもあります。
これは時々経験するもので、よく観察してくださっている飼い主さんが、
「うちの子、最近やたらと水を飲むんです」
と気づいて相談に来られることがあります。
心因性多飲とは、ストレスや精神的な要因などによって水をたくさん飲む状態です。
ただし、ワンちゃんは「なぜ水をたくさん飲んでいるのか」を自分で説明してくれません。
そのため、心因性多飲と判断するためには、ほかに病気が隠れていないかを一つずつ確認していく必要があります。
実際に詳しくお話を聞いてみると、
など、別の原因や背景が見つかることもあります。
「心因性だろう」と思って終わりにするのではなく、ほかに隠れている問題がないかを確認することが大切です。
ここまで読んで、
「あれ?腎臓病は?」
と思った方もいらっしゃるかもしれません。
実は、私自身の診療経験では、慢性腎臓病で「最近、水をたくさん飲むようになった」ということを主な理由として来院されるケースは、それほど多くないように感じます。
慢性腎臓病は、徐々に変化していくことが多いためです。
少しずつ飲水量が増えていたとしても、
「そういえば昔より飲んでいるかも?」
という程度では、なかなか気づきにくいものです。
そして、症状が出てから来院される場合には、多飲多尿ではなく、
といった症状が、主な来院理由になることが多い印象があります。
その時点では、病気がすでに進行しているケースもあります。
一方で、最近はワンちゃんでも定期検診を受けてくださる方が増えています。
そのため、症状がない段階で慢性腎臓病が見つかるケースも増えてきました。
私個人としては、慢性腎臓病は「症状が出てから見つける」のではなく、できるだけ症状がない段階で発見し、その時点からケアしていくことが大切だと感じています。
詳しくは、こちらの腎臓病のブログでも解説しています。
【慢性腎臓病についてはこちら】
猫ちゃんの慢性腎臓病の場合は、よくよく観察していると、ワンちゃんよりも多飲多尿に気づきやすいケースもあるように感じます。
それでも、
「歩いているから大丈夫」
「走れているから大丈夫」
「ごはんを食べているから大丈夫」
と思ってしまったり、
「うちの子には病気であってほしくない」
「動物病院を嫌がるから、できれば連れて行きたくない」
など、さまざまな理由から受診が遅れてしまうことがあります。
その結果、進行した状態で初めて発見されるケースもあります。
初めましてで、
「末期の慢性腎臓病です」
とお伝えすることは、毎年のようにあります。
そのたびに、私もとてもとても心が痛みます。
できることなら、もう少し早い段階で相談していただきたいと思っています。
ご家族だけでは、なかなか受診しづらいこともあります。
また、飼い主さん自身では気づきにくいケースもあります。
もしお友達やご家族など身近な方のワンちゃん、ネコちゃんについて、
「そういえば、最近お水をよく飲んでいるかも」
と思うことがあれば、受診をすすめてあげてください。
……少し話が逸れました。
ここまで、多飲多尿に気づくパターン、気づきにくいパターンについてお話ししてきました。
急に症状が出る場合は、比較的気づきやすいです。
一方で、慢性腎臓病のように徐々に変化していく病気では、飼い主さんが気づくのが難しいこともあります。
だからこそ、
「若い頃はどのくらい水を飲んでいたかな?」
と、ときどき振り返ってみてください。
そして、可能であれば定期検診も受けていただければと思います。
ただし、今まで気づかなかったからといって、ご自身を責めないようにしてください。
プロでも気づいてあげられないことがあります。
「そういえば、最近ちょっと水を飲む量が増えたかも」
そんな小さな気づきが、病気を見つけるきっかけになることがあります。
この記事が、その「そういえば」と思ったときの、ちょっとしたヒントになれば幸いです。
「病気かどうか分からないけれど、最近ちょっと水を飲む量が増えた気がする」
それだけでも、動物病院に相談して大丈夫です。
多飲多尿の原因は一つではありません。
生活環境による一時的な変化の場合もありますし、糖尿病や慢性腎臓病など、検査をして初めて分かる病気が隠れていることもあります。
気になる場合は、
などを分かる範囲で教えていただけると、診察の参考になります。
「これくらいで病院に行っていいのかな?」と思うような段階でも、まずはご相談ください。
元気で長生きな幸せなご家族が増えますように。
横浜もみじ動物病院
獣医師 中西 啓介