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  • 2026.2.13 【ブログ更新】《循環器》犬の心臓病・僧帽弁閉鎖不全症
  • 2026.2.13 犬の心臓病・僧帽弁閉鎖不全症

    今回は犬の心臓病について書いてみようと思います。ある調査では、ワンちゃんの死因の一位は「がん・腫瘍」で、二位が「心臓病」、三位が「腎臓病」とされているようです。このように心臓病はワンちゃんの寿命に大きな影響を与える病気です。

    心臓病と言っても、色々な種類があります。ワンちゃんで一番多く問題になりやすいのは「僧帽弁閉鎖不全症」です。

    心臓は血液を全身に送るメインのポンプです。血液は全身の細胞が活動するために必要な酸素や栄養等を届け、代謝(細胞達の活動)によって生まれた老廃物を処理する臓器に送る等の大切な働きがあります。心臓は動物種によって形が違うのですが、人犬猫は4つの部屋に分かれています。全身から戻ってきた血液は「大静脈」→「右心房」→「右心室」→「肺」→「左心房」→「左心室」→「大動脈」を通って、また全身に送られます。このポンプが上手に動くために、それぞれの部屋に逆流防止弁がついているのですが、「左心房」と「左心室」にある逆流防止弁の1つを「僧帽弁」と昔の偉い人が名付けました。この僧帽弁が漏れてしまう現象のことを「僧帽弁閉鎖不全症・逆流症」と呼びます。

    他にも右心房と右心室の間の「三尖弁」が漏れていれば、「三尖弁逆流症」、逆流以外にも弁が狭窄する(狭くなる)ケースもあって「肺動脈弁狭窄症」、心臓の一部に穴が空いてしまっているケースもあり、例えば左心室と右心室の間だと、「心室中隔欠損症」と呼ばれます。

    これらって全て心臓病ではあるのですが、起こる現象が違うので、症状も違うし、治療法も違ってきます。

    こういう話を出したのは、診察での心臓病の発見の流れの中で、私達獣医師はワンちゃんの心臓の音を聴いて心臓病を発見することが多いからです。

    「あれ?心臓に雑音がありますね。」、「不整脈があります。」

    こういう異常所見を発見することで、心臓病がありそうだという手がかりを得るのですが、心雑音や不整脈は、心臓病の可能性があるというだけで、実際に心臓で何が起こっているのか、どれくらい悪いのかまではわからないのです。もちろん問診やその他の身体検査上の異常所見で、ある程度の重症度などは予測できることは多いのですが。なので、こういった異常があった時には、追加で血液検査、レントゲン検査、超音波検査、血圧検査、心電図検査などを駆使して、具体的に心臓で何が起こっていて、どのようなケアをした方が良いのかを検討していくことが、望ましいです。

     

    ここで、ちょっとした疑問があるかもしれません。それは獣医師によって、検査内容がことなることがあると言う点です。これは、色々と理由はあるのですが、確かに全部を診た方が良いかもしれませんが、費用がかかるや、動物がすごく攻撃的であり検査が難しい、動物の状況から緊急性が低そうなので、ポイントを押さえて最低限の検査にしている、逆に動物の状況が悪いので、状態を見ながら少しずつ検査を実施している。獣医師によって得意な検査や、治療での勘所・指標となるポイントが違うなど、獣医師や動物自身、飼い主さんの色々な事情があるからです。

     

    心臓病には色々な種類があって、治療法が違うと言えば、その通りなのですが、今回は特に、ワンちゃんで一番多い「僧帽弁閉鎖不全症」を例に挙げて、どんなことが起こって、どんな治療を検討していくのかを書いてみようと思います。

    <原因>同じ僧帽弁閉鎖不全症でも原因によって治療が異なるケースがあります。特に心内膜炎などの感染症は、感染の治療が重要です。

    ・弁の変性(粘液腫様変性):一番多く、ガイドラインで語られるのはこれが原因の場合です。

    ・心筋症:大型犬やコッカースパニエルに多いです。

    ・心内膜炎:弁の変性もですが、この心内膜炎も歯周病が原因のことがあります。

    ・腱索断裂:チワワでの経験が多いです。急激に悪化することも。昨日まで元気で雑音も何も無かったけど、急性心不全に伴う肺水腫で急死することもあります。

    <リスク因子>

    ・老化・加齢:10歳を超えると1割以上の子が罹患します。老化とともに増えます。

    ・歯周病:歯周病菌がゆるんだ腱索から検出されたと言うデータがあります。

    ・肥満:人と一緒で肥満症は現在病気と認定されており、万病の元となります。逆に痩せすぎも健康には良くないです。

    ・犬種:キャバリア、チワワ、マルチーズ、シーズー

    ・高血圧症:ワンちゃんでは心臓病自体によるものが多い印象ですが、腎臓病やクッシング症候群などに伴うものも多いです。

     

    <症状(兆候)>

    ・咳 ・運動を嫌がる ・バテやすい ・興奮すると舌が紫色になる(チアノーゼ) ・呼吸困難 ・食欲不振 ・失神 など

     

    初期は、症状は認められません。運動を嫌がる・疲れやすい等に気付く方もいらっしゃるかも。定期的に動物病院で聴診をしてもらっていると、早期発見ができるかもしれません。あまり病院にかかってない方で気付くのは、咳が出始めてからか、呼吸が苦しそうになってからが多いです。呼吸が苦しそうな場合は、「肺水腫」という肺に水が溜まった状態で、窒息死しかけている状況の可能性がありますので、日中ならすぐにかかりつけ医に、夜間なら夜間救急受診が望ましいです。溺れているのと同じような状況なので、溺れかけているのに半日でも様子を見てしまっては手遅れになる可能性があります。

     

    <ACVIM分類:病気のステージと治療ガイドライン>

    昔からいくつかの分類がされてきました。昨今は粘液腫様変性に伴う、僧帽弁閉鎖不全症での病気のステージ分類と治療ガイドラインが作られています。

     

    ・ステージA:心疾患を発症するリスクが高く、現時点では心臓の構造的異常は起きていない犬。心雑音のないキャバリアやチワワなど。

    ・ステージB1:

    心雑音はあるが、レントゲンやエコー検査で心拡大(左心房・左心室)が認められない状態。

     

    ・ステージB2

    目にみえる兆候はないが、心雑音があり、レントゲンやエコー検査で心拡大が顕著に認められる状態。

    ・ステージC

    現在あるいは過去に心不全徴候の認められた犬。 肺水腫を起こしたことがある。

    ・ステージD

    心不全徴候が標準治療に抵抗性を示す終末ステージ。

     

    大まかにこのように分類されています。ステージB2では、心臓の雑音の大きさのレベルが一定以上で、超音波検査やレントゲン検査で心臓が大きくなっている所見をいくつか満たしたら、診断されます。ACVIM分類ではこの検査項目を使いましょうという、決まりがあります、レントゲン検査や超音波検査が必要となりますが、獣医師によっては超音波検査だけ、レントゲン検査だけ、血液検査だけ、あるいはそれらを組み合わせる等、やられています。個人的には最初は全部やってもらった方が詳しく戦略が練りやすいので、全部受けていただくことが多いです。そこまで重症じゃないかな?っていう時には、血液検査を先にやって心臓の数値が高い場合のみ、追加検査に進むというケースもあります。

     

    治療は、基本的には投薬療法・内科治療となり、早期発見早期治療、ステージB2からスタートすると、健康寿命と寿命が長くなると言うデータが出ています。ステージが進行すると、肺水腫という呼吸困難を起こすトラブルのリスクが上がります。獣医師によって違うかもしれませんが、内科治療の目標は、健康寿命と寿命を延ばすことと、肺水腫という苦しい状態を予防することとなります。昨今は根本治療として外科治療という方法もあります。当院では近くに手術ができる施設があるので、今まで10頭程度手術を受けられていらっしゃいます。手術を受けられて、寿命と健康寿命が明らかに伸びている、内科治療が必要なくなった子も多いです。ただ高度医療となりますので、一般的とは言えないです。

    生き物は人間も含めて命は有限で必ず何かしらの病気になります。1年に1回も動物病院に検診に行かない、体調が悪そうなのに、動物病院を受診させないのは飼い主として、流石にいけないとは思います。病気だと言われたら怖いとか、ご家族がどうしても余裕がない等、色々な事情があるので、仕方がないこともあるかもしれませんが、もしこの記事を読んでみて、身内でそういえばと思うことがあれば、勇気を出して、近所の病院に連れて行ってあげて欲しいなと思います。

    動物病院を受診し、獣医師と相談をした上で、どのように付き合っていくかを選択するというのは間違っていることではありません。すべての動物・ご家族にとって、高度医療を受けることが、幸せであり、正しいことであるとは限りません。いくつかある選択肢の中で、動物のために、何をして上げられるのか、一生懸命愛情を持って考えてやることが大切なことかと思います。獣医師として厳しいことを言う時もあるのですが、色々としんどいだろうなぁ、言ったらどう思うかぁ、でも獣医師として言わないとなぁと、内心葛藤することも多々あります。

     

    内科治療でも、獣医師によって使う薬が違うことがあります。これは専門医であってもそういう現象が起きます。ガイドラインでも色々な過去の論文を見て、専門医達がどういったレベルで推奨しているか、ということが書かれており、これじゃないといけないという風には書かれていません。薬もその子その子で合う・合わないがありますし、獣医師によって、得意な武器(薬)が違って、この状況だったら、この薬が合うというような、職人の感覚のようなものがあるケースもあります。わからない時は、担当の先生によく相談されると良いかと思います。

     

    私個人は基本的にはガイドラインに則った治療をメインで推奨しているのですが、仕方がない部分もあるのですが、できるだけ病気になって欲しくないので、プラスアルファで、何も症状が出ていない子は、予防として、リスク因子である肥満症の予防・治療、歯周病の予防・治療を推奨しています。また余裕のある方は血液検査を受けられることも推奨しており、腎臓病やクッシング症候群などが怪しくないかなどのチェックをおすすめしています。心臓病を発症している場合には、ご希望や状況に応じて、ガイドライン外の手術の案内や、漢方や食事療法などもご提案しております。

    寿命と健康寿命に関わってくるトラブルなので、予防もそうですし、早期発見・早期治療のため、半年に1回程度、ワクチンの時にでも一緒に聴診を受けてもらうこともおすすめしています(ワクチンに来られたら、基本的には聴診をします)。

     

    実際の治療ですが、内科治療を実施していくケースは多いですが、基本的には病状が進行していきます。それを遅らせるのが目標なのですが、初期は強心剤(ピモベンダン)をおすすめするケースが多いです。病状が進んで行った場合は、心臓の負担を他の臓器に肩代わりしてもらうような薬を使用していくことが多いです。つまり利尿剤です。利尿剤を使うことで、心臓への負担を減らし、咳で苦しむ、肺水腫で呼吸困難となるリスクを減らしていきます。ただ使い過ぎると、心臓以外の特に腎臓に負担がかかり、これも寿命に影響が出てしまいます。腎臓が悪くなると元気や食欲が無くなってしまいます。これも良くないのですが、バランスを見ながら、老衰に近い(老衰に見える)形で、ゴールまで伴走していきます。上手くいくなら、心臓病では亡くならないようにするのが、心臓病治療では最善ですが、歳でどうしても他の病気にはなってしまいますので、トータルのバランスを見て、相談しながら治療を行っています。

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