神奈川県横浜市都筑区仲町台5丁目2−25
ハスミドミトリー001
2023年2月7日
前回に引き続き、歯のトラブルについて書いてみようと思います。
今回は根尖部膿瘍(歯の根っこが歯周病菌におかされ、骨が溶け、炎症が起こり、膿が排出される病気です)のワンちゃんです。
歯のトラブルが起きた時、必ずしも歯がおかしいと気づかれてご来院するというわけでもありません。「頬から膿が出ている」、「頬に傷がある」ということでご来院し、色々と調べてみると歯が原因だったということがあります。
↑頬が何だかおかしい。これは結論としては歯が折れて、歯周病、根尖部膿瘍になったことが原因となります。
頬から膿が出ているとなると、まず歯のトラブルが疑われるのですが、皮膚炎や外傷、がんなど、他の原因も考えないといけません。下記のように検査や治療を行っていくことで、原因がハッキリとしていきます。
↑治療前の歯の肉眼所見です。どの歯が原因でしょう?このケースだと肉眼所見ではハッキリしません。
全体的に茶色い歯石が付着しており、歯肉が赤くなっています。
よくわからないかもしれませんが、特に赤丸の部分は歯が折れているように見えます。原因は多分ここでしょうか?
↑ハッキリさせるために病変部がどこなのか、全ての歯を1本1本レントゲンでチェックします。
左側は上の赤丸の歯で、歯の周りの骨が溶けている(何だか黒くぼんやりしている)ことがわかります。
右側は正常な歯で、歯の周りの骨がしっかりとキレイな様子がわかります。
↑赤丸の歯を歯石を取った所です。やはり歯が折れています
↑レントゲン検査で明らかに悪いとわかったので、歯科用ドリル等を使い抜歯をしました。
右側は歯の断面で、穴が開いていることがわかります。歯周病菌に歯の内部を侵されていったのだと考えられます。やはりこの歯は悪そうです。
↑抜歯後に、歯の根っこが残っていないかチェックしています。
↑左側の抜歯した部位は穴が開いており、そこから右側の写真の器具を入れてみます。すると・・・
↑右側のように、器具の先端が頬まで貫通していることがわかります。
つまりこの歯が病変部で、ほぼ間違いなさそうだとわかります。
歯が折れ、露出した歯髄から歯周病菌が侵入し、歯全体そして特に歯の根っこの周りがおかされ、骨が溶け、炎症が起こり、膿が溜まり、それが軟らかい頬から排出されたのではないかと考えられます。
↑抜歯後の穴をよく洗浄し、歯槽骨を切削機なめらかにして、吸収糸で縫合しています。
↑左側が処置前で、右側が処置後です。
他の歯も歯肉炎・歯周病になっていますので、スケーリング、ルートプレーニング、ポリッシング等の治療(処置)を実施しました。
↑処置後しばらくしての写真です。左は頬が治っていることがわかります。
右は抜歯部位で、まだ縫合糸が残っていますが、粘膜がキレイに癒合して穴が塞がっていることがわかります。糸はしばらくしたら取れるので、基本的にはそのままにしておきます。
歯が折れてしまうと、それが原因で根尖部膿瘍を引き起こしてしまうケースがあります。
わんちゃんは噛むことが大好きな子が多いですが、硬すぎる物を与えると、歯が折れてしまうことがよくありますので、ご注意ください。やはり予防が一番大切です。
もし歯が折れてしまった場合には、抜歯や歯内治療等いくつか治療選択肢があります。(上記の子の場合は歯内治療は適応できません。)
歯がどの程度の重症度で折れているのか、折れてからどれくらい時間が経っているのか、普段から歯のケアができるか、歯の治療の為に麻酔がかけられるか(複数回かけないといけないケースもあります)、費用面はどうか等の様々な要因で治療選択肢は変わってきます。歯が折れた時は、かかりつけの先生に早めにご相談をしてみてください。
<歯が欠けていた別のワンちゃんの治療例>
↑歯が折れた子の治療は抜歯になるケースが多いのですが、幸い歯髄が出ているわけではなかったので、レジンで補修しました。
歯が汚れてきたので(左が処置前)、そろそろクリーニングをしたいとのことで、クリーニングをしてみたら、歯が少し欠けていることがわかりました(真ん中)。ここに汚れが溜まりやすいことと、さらに削れたら露髄し、しみたり、歯がダメになることもあるかもしれないので、補修しました(右側が処置後)。