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犬猫の食欲不振について、獣医師が伝えたいこと|「食べている」と思っていませんか?

2026年9月12日

前回、前々回と、ワンちゃんと猫ちゃんの「食欲不振」について書かせていただきました。

「急にご飯を食べなくなったら、どのくらい様子を見ていいのか?」

「どんな症状があれば動物病院に行ったほうがいいのか?」

そんな疑問を持つご家族の参考になればと思って書いたものです。

実際の診療でも、「急にご飯を食べなくなった」というケースは、ご家族が比較的早く異変に気づいて来院されることが多いように感じます。

皮膚をかゆがっている、少し吐いた、便が少しゆるい、といった変化に比べると、

「いつも食べている子が、急に食べなくなった」

という変化は、ご家族にとっても分かりやすく、大きな心配事になりやすいからです。

急な変化であれば、ご家族が気づいて動物病院へ連れてきてくださる。

その意味では、私は「急に起こった食欲不振」については、それほど心配していません。

もちろん、急な食欲不振の中にも、大変な病気が隠れていることはあります。

しかし、少なくとも「気づくことができる」という点では、比較的対応しやすいのではないかと思っています。


本当に難しいのは「少しずつ食べなくなっている」ケース

私が難しいと感じるのは、むしろこちらです。

実は、ずっと前から食欲が落ちていた。

でも、ご家族は「食べている」と思っている。

このようなケースです。

もちろん、これはご家族が悪いわけではありません。

犬や猫は、「今日は昨日より10g食べる量が減った」ということを教えてくれるわけではありません。

毎日一緒に暮らしているからこそ、少しずつ起こる変化には気づきにくいこともあります。

特に猫では、その傾向が強いように感じます。

そして、私自身も診療のあとに、

「もっと早く気づいてあげられていたら」

「何か一つでもアドバイスできていたら」

と思ってしまうことがあります。

少しデリケートな話になりますが、今回は獣医師として、私が日々の診療で感じていることを書いてみたいと思います。


ある患者さんのお話

実際のお話を多少脚色していますが、診療では時々このようなことがあります。

主:飼い主さん  獣:獣医師

主「最近、食欲がないんです」

獣「いつからですか?」

主「ここ3日、ほとんど食べていないんです」

獣「そうなんですね。何かきっかけはありますか?」

主「特にないです。半年前にドライフードを食べなくなって、ウェットフードにしたら、よく食べるようになっていたんです」

獣「なるほど。ウェットフードはどこのメーカーのものを、どのくらい食べていますか?」

主「どこのだったかな……。○○のメーカーのものを、1日2袋くらいです」

獣「半年前から、ずっと1日2袋ですか?」

主「いえ、1か月くらい前から1袋くらいになって、1週間前からさらに半分くらいしか食べなくなって……。ここ3日はほとんど食べていません」

獣「嘔吐や下痢はありますか?」

主「食べなくなってからは吐いていません。便も出ていません。下痢はないです」

獣「それ以前はどうでしたか? 若い頃から吐いていましたか?」

主「若い頃は、そんなに吐いていなかったと思います。でも歳を取ってからは、月に何回か吐いていたかもしれません」

獣「半年前にドライフードを食べなくなってからはどうですか?」

主「毎週吐いていました。食べなくなってからは吐いていません」

獣「ちなみに、今日の体重が2kgですが、若い頃は何kgくらいありましたか?」

主「5kgくらいはあったと思います」

ここまでお話を聞くと、獣医師としては少し考え込んでしまいます。


「3日食べていない」だけではなかった

この子の場合、

「3日前から食べていない」

ということだけを見ると、急な食欲不振に見えます。

しかし、実際には、

半年前からドライフードを食べなくなっていた。

そして、

1か月前から食べる量が減っていた。

さらに、

1週間前から、さらに食べる量が減っていた。

そして、ようやく「ここ3日ほとんど食べていない」というところで来院されたわけです。

つまり、「3日間食べていない」のではなく、

半年間かけて、少しずつ食欲が落ちていた

可能性があります。

さらに、若い頃にはなかった嘔吐が、半年前から毎週のように起こっていた。

そして体重を見ると、若い頃には5kgほどあった猫が、現在は2kg。

もちろん、体重が減った理由は一つとは限りません。

実際に検査をしてみなければ病気を特定することはできません。

しかし、身体検査やこれまでのお話を合わせると、かなり進行した慢性疾患が隠れている可能性を強く考える状況です。


「硬いものを食べなくなった」は、年齢のせい?

このケースで、私が特に気になるのが、

「半年前にドライフードを食べなくなった」

というところです。

猫がドライフードを食べなくなってウェットフードを食べるようになった。

ウェットフードなら食べるので、

「ドライフードが嫌いになったのかな?」

「歳を取ったから、柔らかいものが好きになったのかな?」

と考えることもあると思います。

もちろん、本当に好みの問題である場合もあります。

しかし、

「硬いものを食べなくなった」

という変化の裏側に、歯や口の中の痛みが隠れていることがあります。

また、食欲そのものが落ちている可能性もあります。

「食べられるものを食べているから大丈夫」とは限りません。

食事の種類が変わったときには、

なぜそのフードしか食べなくなったのか?

という視点も大切です。


猫は「病気を隠す」のがとても上手です

猫の診療で難しいと感じる理由の一つが、猫は体調不良を外から分かりにくくすることがある、ということです。

かなり体調が悪くても、

歩くことができる。

ジャンプすることができる。

走ることもある。

ご家族の顔を見れば「ニャー」と鳴く。

スリスリしてくる。

そんなこともあります。

だからこそ、

「元気そうだから大丈夫」

とは限りません。

猫の場合は、

「食べる量が少し減った」

「以前より吐くようになった」

「体重が少しずつ減っている」

「水を飲む量が増えた」

「トイレに行く回数が変わった」

といった、小さな変化の積み重ねが重要です。


「食べているから大丈夫」ではなく、量を見てほしい

私が猫のご家族にぜひお願いしたいのは、

「食べているかどうか」だけではなく、「どのくらい食べているか」を見てほしい

ということです。

例えば、

「ちゃんと食べています」

と言われても、

以前は1日2袋食べていたのが、今は1袋。

さらに半袋。

それでも「何かは食べている」ため、ご家族からすると「食欲はある」と感じることがあります。

しかし、実際には食事量が半分、さらにその半分になっているかもしれません。

少しずつ減っている変化は、急に全く食べなくなる変化よりも、気づきにくいものです。


体重を測るだけでも、早期発見につながります

猫の体調変化に気づくために、ご家庭でできることの一つが体重を定期的に測ることです。

特に、

  • 高齢の猫
  • 腎臓病などの持病がある猫
  • 以前より食べる量が減ってきた猫
  • 嘔吐が増えてきた猫

では、体重の変化を確認しておくことをおすすめします。

「見た目は変わっていない」と思っていても、数字を見ると少しずつ減っていることがあります。

毎日測る必要はありません。

例えば定期的に体重を測り、記録しておくだけでも、

「いつから体重が減り始めたのか」

を知る大きな手がかりになります。


ご家族を責めたいわけではありません

ここまで書いてくると、

「もっと早く病院に連れて行けばよかったのでは?」

と思われる方もいるかもしれません。

でも、私はご家族を責めたいわけではありません。

ご家族には、ご家族なりの事情があります。

仕事や生活のこと。

他のご家族のこと。

動物病院に連れて行くことへの不安。

「病院に行ったら、病気だと言われるかもしれない」という怖さ。

「もう歳だから仕方ないのかな」と思ってしまう気持ち。

猫の場合には、そもそも動物病院へ連れて行くこと自体が大変なこともあります。

普段動物病院にかかっていなければ、

「どこの病院に連れて行けばいいのかわからない」

ということもあるでしょう。

いろいろな事情があるのだと思います。

だからこそ、この記事を読んでくださった方には、

「食べているから大丈夫」ではなく、「以前と比べて食べる量が変わっていないか?」

ということを、一度確認してみてほしいと思っています。


「もっと早く気づいてあげられたら」と思うから

獣医師として診療をしていると、

「もっと早く見つけてあげられたらよかったのに」

と思ってしまうことがあります。

もちろん、来院されていない以上、私たちが診察することはできません。

それは分かっています。

それでも、

「半年前に相談してもらえていたら、何かアドバイスできたかもしれない」

「体重を測ってもらえていたら、もっと早く変化に気づけたかもしれない」

「食事量の変化を一緒に確認できていたら」

と思うことがあります。

これは、私個人の感傷なのかもしれません。

それでも、今回この記事を書いたのは、

「誰か一人でも、この記事を読んで早く気づいてくれたらいいな」

と思ったからです。

獣医師は、診察をして、検査をして、病気を診断し、治療することはできます。

でも、それだけでは十分ではありません。

毎日その子と一緒に暮らしているご家族にしか気づけない変化があります。

「昨日より少し食べる量が減った」

「最近、ドライフードを残すようになった」

「前より吐くことが増えた」

「なんとなく痩せてきた気がする」

そういった小さな変化を、私たち獣医師が最初から見つけることはできません。

獣医師だけの力では、どうしても限界があります。

ご家族が日々の変化に気づいてくださり、その情報を私たちに教えてくださる。

私たちは、その情報をもとに診察や検査をして、必要な治療やアドバイスをする。

そうやって初めて、その子の健康を守ることができるのだと思います。

だからこそ、私はご家族に「病気を見つけてください」とお願いしたいわけではありません。

病名を当てる必要もありません。

ただ、

「なんとなく、いつもと違う」

という感覚を大切にしてほしいと思っています。

食べる量が少し減った。

以前は食べていたものを食べなくなった。

吐く回数が増えた。

体重が少しずつ減っている。

そういった小さな変化を、「歳のせいかな」「好き嫌いかな」と片づけず、一度ご相談いただければと思います。

「こんなことで病院に行っていいのかな?」

と思うくらいの変化でも構いません。

早い段階でご相談いただければ、病気があるのかどうかを確認することもできますし、病気がなければ安心することもできます。

何より、

「もっと早く気づいてあげればよかった」

と後悔することを、少しでも減らせればと思っています。

犬や猫は、自分から「最近ちょっと食べる量が減りました」と教えてくれることはありません。

だからこそ、ご家族が気づいてあげることが、とても大切なのだと思います。

今回の記事が、皆さんのワンちゃん・猫ちゃんの小さな変化に気づくきっかけになれば幸いです。

 

横浜もみじ動物病院

獣医師 中西 啓介