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《循環器》猫の心臓病・心筋症

2026年2月14日

次は猫の心臓病について書いてみようと思います。

ある調査では、猫ちゃんの死因の一位は「腎臓病」で、二位が「がん・腫瘍」、三位が「心臓病」とされているようです。わんちゃんとは、ちょっと順位が違うんですね。それでも心臓病は死因の上位に入ってきます。

ワンちゃん同様に、心臓病と言っても、色々な種類があります。猫ちゃんで一番多く問題になりやすいのは「心筋症」です。猫ちゃんの「心筋症」は突然死を起こしてしまうことのある厄介なトラブルです。

多くの子を治療をさせていただいて、色々と感じることがありますが、まずは一般的な治療ガイドラインであるACVIM分類の要約を載せてみようと思います。

 

猫の心筋症(ACVIMガイドライン)要約

1.心筋症って何?

心筋症とは
👉 心筋症は、「心筋に異常をもたらすレベルの循環器疾患が存在しないにも関わらず、心筋に構造的、機能的異常が起こる病態」と定義されています。

ワンちゃんの、僧帽弁閉鎖不全症を例にあげると、弁が緩むことで、血液の逆流が起こり、心臓のポンプ機能が低下してしまいます。全身に血液がうまく送れなくなるので、体はすごくて、それを何とか解決しようとします。その解決法が心臓の筋肉を分厚くして、もっとたくさんの血液を送れるようにパワーアップさせようとすることです。まあこれが長期的には逆効果だったりするのですが。この現象は確かに心筋が変化を起こしていますが、心筋症ではないのです。こういうパターンではなく、心筋の構造的な異常が起こるのが、心筋症です。とてもわかりにくいですね。

猫では比較的よくある心臓病で、

  • 心不全
  • 血栓塞栓症(後肢麻痺など)
  • 突然死
    につながる可能性があります。

2.猫の心筋症の種類(分類)

心臓の形や動き(表現型)で分類します:

🧬 主な5タイプ

  • HCM(肥大型心筋症):心筋が厚くなる(最も多い)
  • RCM(拘束型):心臓が硬くなり広がらない
  • DCM(拡張型):心臓が拡大して収縮力低下
  • ARVC(不整脈源性右室心筋症)
  • UCM(分類不能型)

👉 猫では原因が不明なことが多く、見た目(心エコー)で分類するのが現実的。 本当は心臓を取って、スライスして顕微鏡で心筋の変化が起こっていることを証明することが、確定診断なのでしょうが・・・、これは現実的ではありません。

3.ステージ(病気の進行度)

ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症に似ています。

○ステージA

  • 遺伝的リスクだけ(まだ病気なし)

○ステージB(心筋症あり・症状なし)

  • B1:リスク低い
  • B2:心房拡大などでリスク高い

○ステージC

  • 心不全や血栓塞栓症を起こしたことがある

○ステージD

  • 治療しても改善しない末期心不全

👉 左心房が大きいほど心不全や血栓リスクが高い。 ワンちゃんの場合は、ステージB2から内科治療をすると健康寿命と寿命が伸びるという明確なデータがあるが、猫ちゃんでは、わかっていない。色々と効きそうかも?という情報がある。血栓のリスクが高そうなら、治療は強く推奨される。

4.どれくらい多い?

  • 肥大型心筋症(HCM)は 猫の約15%
  • 高齢猫では 最大29%
  • 多くは無症状のまま一生を終える
  • でも約23%は5年以内に心臓関連死
    👉 心不全や血栓、突然死が原因。

5.リスクが高い猫

  • 高齢
  • オス
  • 特定品種
    • メインクーン
    • ラグドール
    • ブリティッシュショートヘア
    • ペルシャ
    • ベンガル
    • スフィンクス
      など。
      👉 遺伝子変異(MyBPC3)も一部品種で確認。

6.症状

多くは無症状。
出ると:

  • 呼吸困難
  • 食欲不振・元気低下
  • 後肢麻痺(血栓塞栓症)
  • 失神
  • 突然死

血栓塞栓症は、「突然ギャっと鳴いたかと思ったら、後ろ足をひきずっている」というのが、よく聞く症状です。緊急疾患ですが、残念ながら多くの子が治療の甲斐なく亡くなってしまいます。飼い主さんが改善して頑張ってケアをしてあげたことで、2〜3年くらい生きてくれた子も中にはいます。

7.診断

🔬 重要な検査

  • 心エコー
  • レントゲン
  • 血圧
  • 甲状腺ホルモン
  • 心臓バイオマーカー(NT-proBNP)
  • 遺伝子検査(特定品種のみ)

👉 心雑音があれば精査推奨。

8.予後(どれくらい生きるか)

  • 無症状なら長生きが多い
  • 心不全や血栓が出ると寿命は短くなる
  • 左心房拡大、重度肥大、不整脈などは悪い予後因子

 

 

ここまでで、お腹がいっぱいになるくらい情報量が多いのですが、猫ちゃんの心筋症の現在の基本的なガイドラインは上記の通りです。ただ猫ちゃんの心臓病、心筋症は複雑怪奇です。とにかく悩ましい・・・。

 

 

<猫ちゃんの心臓病が悩ましい理由>

○早期発見が難しい

・ご家庭内では初期症状がわかりにくすぎる(猫ちゃんは病気を隠す生き物なので、わからないが普通です。)

・初期症状がわかりにくいので、飼い主さんが連れて来ないケースが多い。ワンちゃんは狂犬病の予防接種が義務化されているため、予防接種の際の聴診で見つかるケースが多いけど、猫ちゃんはワクチンや健康診断が推奨はされているが、義務ではないため、定期検診を受けられない飼い主さんが結構いる。(正直頑張って連れて来て欲しいです)

・急激に悪化して、突然死することもある

・わかりやすい症状が出た時は末期もしくは末期に近い

 

→初めましての方で重症ですや、久しぶりに来られたら重症ですとか、もう亡くなっていますって言うのは、私達獣医師もすごくショックです。何とかしてあげられなかったかなと、無力感を感じます。亡くなっている子は仕方がないのですが、重症な子はもちろんよく相談をして、その子とご家族にとって最善の方法なないかを一緒に探しながら、頑張って治療をしますが、早く見つけてあげられていたらなと、内心思っている自分もいます。飼い主さんを責めているわけではなく、何かできなかったかなと思うわけです。なので、今回ブログを書いてみました。

 

○診断が難しい

・心臓の雑音や不整脈があれば、早期発見につながるが、猫ちゃんは心雑音が非常にわかりにくい。

猫ちゃんの心臓の雑音は聴取が難しく、ゴロゴロのどを鳴らす子は・・・可愛いのですが、まず雑音はわかりません。心臓の雑音がワンちゃんよりも小さく、ほんのちょっとでも聴診ポイントをずらすと聴こえなくなります。不整脈は常に起こっているとは限らず、たまたまタイミングが合って聴こえるケースもあります。肥満症の子は脂肪が邪魔をして、これまたわかりにくい。

・心臓に雑音がない場合もある

血液検査やレントゲン検査、超音波検査、術前の心電図検査をしても、何も異常がないけど、麻酔をかけたタイミングで、急に不整脈が出始めるケースもある。滅多にないですが、ここまでくると流石に事前の発見は困難です。

→私も頑張って見逃しがないようにしていますし、結構見つけてあげられていると思いますが、獣医師も一回ではわからない時もあると思うので、猫ちゃんを連れて行くのは大変かとは思うのですが、定期的に検診を受けさせてあげて欲しいです。

 

○治療が難しい

・同じ心筋症でも、個体差がかなりある

・心筋症は心臓を作っている筋肉が変性(構造が変化)してしまう病気です。肥大型心筋症、拘束型心筋症、拡張型心筋症などの、型で分類はされているのですが、心筋が分厚くなってしまう肥大型心筋症でも、心筋の一部だけが分厚くなる時もあります。場所が良ければ心臓のポンプ機能(心機能)には問題ないこともあるし、場所が悪ければ重度な心不全を起こしてしまうこともあります。心不全と一概に言っても、心臓の中でダメージを受けている場所が違うと、同じ心臓の薬でも逆効果になってしまうことがあります。構造や機能的に何が起こっていそうかを調べて、理論的にそして過去のデータ的にこの薬が効くだろうとスタートしてみて、もちろんその通り効くことは多いのですが、逆効果になるケースもゼロではないです。手探りで効果のある薬を検証していくケースもあります。

代表的なものとしては、アメリカンショートヘアやロシアンブルーの肥大型心筋症などで、起こりやすいSAM(収縮期前方運動:左心室内で弁が異常に動く現象)と呼ばれる現象です。この現象が起こっているケースだと、アテノロールと呼ばれる心拍数を減らす薬で、このSAMという現象を改善させ、場合によっては、心臓の雑音が消え、血液検査にて心臓の負担を示すマーカーが減少するということを経験したことがあります。

 

・上記の通りですが、ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症と同様に、ACVIM分類があります。ワンちゃんの場合、症状はないけれども、心不全が起こっていると言うステージB2では、ピモベンダンという内服薬をスタートすると、病状の悪化を明確に予防できるというデータが出ています。しかし、猫ちゃんの場合は、血栓症のリスクがあるなら、その予防は積極的にやった方が良いとはあるのですが、何をやればワンちゃんのように、病気の進行を遅らせることができるのかが、明確にはされていません。これは多分、同じ心筋症と言っても、心筋の変性が起こる場所や、タイプが色々とあるため、複雑だからだと思います。今後少しずつ、細かいパターン分類を実施していき、このパターンではこの治療法が効果的というデータが増えていけば、早期治療の明確なメリットが出てくるのではないかなと期待しています。あとは、今の薬や治療法は、タウリン欠乏症や甲状腺機能亢進症などの病気に伴うものを除き、基本的に心筋の変性自体を直接抑えるタイプの薬ではなく、イメージとして心臓の動きをなめらかにすることで、心臓へのダメージを減らして、2次的に心筋の変性を遅らせる効果も狙っているのかなと思います。そもそも心筋の変性が問題なので、それを抑制することが全ての心筋症の治療法になるのかもしれませんね。最近では食事療法が心臓のダメージのマーカーを下げ、厚くなった心筋を薄くさせる効果があったという情報も出てきています。もしかしたら、将来的には、心筋の変性自体を根本的に治してくれる治療法が出てくるのかもしれませんね。

 

 

最後に、猫ちゃんの心筋症の治療については、ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症のように、早期発見後の治療の予防効果が明確ではないです。また根本治療として手術と言う方法もあるので、ワンちゃんの僧帽弁閉鎖不全症の治療は、猫ちゃんの心筋症の治療より先を進んでいると思います。個人的には、猫ちゃんでも、悪化を抑制する効果的な方法が確立され、場合によっては、治せる病気になって欲しいなと願っています。

猫伝染性腹膜炎という病気をご存知でしょうか?ほんの10年前までは致死率はほぼ100%の不治の病でした、ですが新薬の登場により、8割以上の子が治る時代が到来しました。ワンちゃんの心臓外科も成功例がこんなに出たのは、20年も経っていないです。

10年前は不治の病だった疾患が、今は治る時代です。
猫の心臓病も、きっと同じ未来に向かっていると信じています。